米・カリフォルニア州サンフランシスコ Designed by HOKデザイン
フリッツ・ハンセン(以下、FH):今回の特別なプロジェクトについて簡単に解説してください。
ダニエル・ヘリオット(以下、DH):そうですね、私にとってアストラゼネカは完璧なクライアントです。彼らが職場に求めるレベルはとても高いのです。というのも、彼らはそこで働く人々のケアを最優先していますから。人と人が触れ合える場所、あらゆる機会を支える最新設備、プライベート空間などを備えた快適な職場は、利用者のウェルビーイングと生産性向上に必要不可欠です。アストラゼネカは、こうした点を深く理解していましたから、私たちに細かくリクエストすることはありませんでした。最初の段階から、開かれた会話だったのです。
彼らの願いは、生産性と独創性をアップさせ、知識の共有と職場内のコラボレーションを改善し、優れたワークスペースデザインとともに最大限の健康、ウェルビーイング、安全性を育むことでした。
このプロジェクトは、アストラゼネカの成長という興味深いタイミングに訪れました。私たちは、異なる企業文化と仕事環境を持つ4つの子会社に勤務していた従業員をつなぐことができるワークスペースデザインを必要としていました。デザインは、文化の共有と融合を促進させるものでなければいけなかったのです。
それと同時に、ほかの空間に対する研究室の透明性をアップさせたいと考えました。さまざまなニーズやサステナビリティに関する考えに応じられる柔軟な空間を実現したかったのです。それに加えて、地域にふさわしいものにしたいと思いました。
FH:こうした目標設定から、どのようなデザイン要素が生まれたのですか?
DH:まずは、すべての従業員が研究室内で起きていることとコネクトできるよう、研究室の透明性を高めました。さらには、研究室内にミーティングエリアを設けたのです。これは珍しいことです。それまでは、従業員たちは研究室エリアの外にある会議室を予約し、着替えて、手を洗ってからグループ会議やディスカッションに赴く必要がありました。いまでは、研究室内でミーティングができますので、時間の節約になりますし、アイデアの共有が仕事場に近い環境で確実に行われるようになりました。
建物内の色調やアートワークのデザインに関しては、従業員のフィードバックを活用しました。彼らは、科学技術を想起させる旧来のイメージではなく、地元サンフランシスコで採れる薬用植物の生態系にもとづいた色調とパターンを活かしたインテリアを好みました。そのため、空間内に物語と学びの要素が加わったのです。
日中の日当たりなどの条件に応じて特定のワークスペースに最適な植物を選ぶため、私たちは植物コンサルタントの力を借りました。オフィス内の植物がすくすくと成長してほしいと思ったからです。当然ながら、これはワークスペースにおけるバイオフィリックデザイン(オフィス空間などの建築デザインにおいて自然とのつながりを重視・向上させようとする概念)の一例でもあります。
私たちは、フロアごとに違うフードと飲み物を提供する、異なるスタイルの空間を設計しました。それによって従業員が違うフロアを訪れ、従業員同士の触れ合いを促進したかったのです。異なる4社からきた従業員たちをまとめるためにも、これは大切なことでした。階段の配置も、エレベーターではなく階段を使ったフロア間の移動を奨励しました。当然ながら、幸福と心地よさは切っても切れませんし、私たちはこうした空間とデザインに対して従業員からとても前向きなフィードバックをいただいています。これこそがクライアントと私たちの成功の鍵なのです。