ビデオ通話にありがちな、センスよくまとめられた本棚という背景の代わりにポレットとパスクエロの自宅には、フォトバイオリアクターという3つの巨大なガラスチューブがあり、いくつものカラフルな物質がブクブクと泡を立てています。「培養中の3種類の食べられるマイクロアルジェ(微細藻類)です」とポレットは説明してくれました。「ワインレッドがチノリモ、黄緑色がクロレラ、青緑色というよりは、黒に見えるくらい濃い色をしているのがスピルリナです」。これらはecoLogicStudioが開発中のポスト・コロナ時代戦略の一部です。このプロジェクトを通じ、ふたりは都市人口が植物性たんぱく質を育てる方法と、食料になることはもとより、二酸化炭素を吸収する一方で観葉植物よりも効率的に家庭内に酸素を排出してくれる植物を探究しています。「子供たちは大喜びで収穫してくれます。昨夜は、スピルリナのパンを作りました」とパスクエロは続ける。「スピルリナには、芝生とナッツの中間のようなピリッとした風味があるのです」。
果たしてこれは建築なのだろうか? とあなたは自問するかもしれません。EcoLogicStudioのホームページには、「環境デザイン、都市の自給自足、統合自然の建設に特化したアーキテクチャル・アーバン・デザイン事務所」と記されています。しかし、2005年に設立されたこの先駆的な会社は、カテゴリーに区分されることを拒みます。そして、それこそが重要なのです。
「私たちはレッテルを好みません。というのも、分野という境界を設けるのは、還元主義に走りがちだからです」とパスクエロとともにトリノ工科大学でエンジニアリングを専攻したポレットは言います。その後、ふたりは“AAスクール”と呼ばれるロンドンの英国建築家協会建築学校で学び、同校とロンドン大学バートレット建築学校で教鞭をとるようになりました。「私たちは、特定の環境に応じた役割を喜んで引き受けます」とポレットは言います。「でも、テクノロジーと自然を融合する方法を再度思い描くには、これらの道のりを再考しなければいけません」。パスクエロは、当時の人々に大きな影響を与えたイギリスの研究者グレゴリー・ベイトソンの1972の著書『精神の生態学』を引用します。同書はecoLogicStudioというスタジオ名の由来でもあり、ふたりの信念の中核的なテーマでもあります。ベイトソンは、世界の問題は「自然の仕組みと人間の考え方」の相違によって生じると主張しました。ecoLogicStudioのプロジェクトは、まさにこうした課題に取り組み、アントロポロセン(人類の時代)から人類・人類以外の種・微生物が相対的かつ効率的に協力し合う、つながりのあるより良い世界に向けてのパラダイムシフトの活性化に努めています。どこから見てもこれは簡単な仕事ではなく、ecoLogicStudioは生物学者、エンジニア、アーティスト、コンピューター科学者、プログラマー、さらには藻類、菌類、粘菌、クモ、カイコとのコラボレーションを通じて理論と実践のあいだを行き来しながら取り組んでいます。
「PhotoSynthEtica」コンソーシアムは、現在進行中のイニシアチブのひとつです。このイニシアチブは、パートナーであるバートレット建築学校のUrban Morphogenesis Labとオーストリアのインスブルック大学(パスクエロは同校のランドスケープ建築の教授に就任)のSynthetic Landscape Labとの共同研究を通じて2018年に立ち上げられ、複数の建築的介入、アートインスタレーション(演劇も学んだパスクエロは、芸術の力と芸術を活かしてアイデアを表現することを熱心に提唱しています)、さらにはエストニアの首都タリンの環境に優しい都市のマスタープランなどを考案しました。未来のユートピア的なバイオ都市の機能を人々に理解してもらうには、視覚化こそが鍵であると考えます。その点において、細菌がぎっしり詰まった生きた肺とも言うべき、建物のファサードに被せる半透明の緑の“バイオカーテン”である「Photo.Synth.Etica」は、見事な展示です。このカーテンは1日に樹木20本分の二酸化炭素を吸収し、光合成のレベルは圧巻的なスケールです。汚れた都会の空気がカーテンの下から入り、藻類が入った部分を抜けることで汚染物質が取り除かれます。そこで二酸化炭素が隔離され、酸素が排出されるのです。それだけでなく、夜はマイクロアルジェの力で発光します。「Photo.Synth.Etica」はすでに実用化されており、その代表例として2018年にアイルランドの首都ダブリンのPrintworks Buildingに使用されました。
「私たちの使命は、人々が交流し、さまざまなプロセスを通じて一対一のコンタクトがとれるようになる新しい種類のランドスケープを育める、新しい要素を提案することです」とパスクエロは解説します。「私たちが消費する地球の資源に対してより自己組織化したアプローチが取れるように」。
EcoLogicStudioの取り組みに対する関心はこの2年で爆発的に高まりました。これは、ますます深刻化する気候変動への不安に呼応し、デザインと建築におけるバイオ素材への関心が一気に高まったからです。パスクエロは、昆布茶作りに使用されるのと同じ細菌を使って“育てた”オーガニックレザーを見せてくれました。
ファッションブランドCOSの厚意により、ふたりは毎年ミラノで開催さえるデザイン・フェスティバルに参加する予定でした。COSは、毎年没入型のインスタレーションを発表し、メディアの注目を集めてきました。光合成というテーマを追求するecoLogicStudioは、ミラノの運河システムの水の乱れに関するレオナルド・ダ・ヴィンチの研究にもとづいた提案を出しました。残念ながら、これらはほかの数多くのプロジェクト同様、保留になっています。それでも、ほかのプロジェクトは進行します。ecoLogicStudioは粘菌の生物学的インフラストラクチャー、新しいフィルターとバイオリアクター(8月末にヴェネチア・ビエンナーレで発表予定)、国際連合開発計画の資金提供を受けているDeep Greenプロジェクトなどに取り組んでいます。このプロジェクトでは、人工および生物学的知能を用いて都市の新しいグリーン経済を形成します。
いまも続くパンデミックにおいてベストなシナリオは、世界中の人々がecoLogicStudioの大義に気づき、深刻な結果を招かずにこれ以上資源を消費し続けることはできないと自覚することです。その一方、環境汚染がさらに進んでいます。「透明性のある統合的な新しいシステム、私たちの都市や公共の領域をエコシステミックな視点でとらえてくれるシステムを採用する必要があります」とポレットは締めくくります。こうしたことがインターネット上で爆発的に広まるのを想像してみてください。最善の方法を知っているのは自然なのか? 私たちは、まさにいま、その答えを知ろうとしています——手遅れになってしまう前に。