リリー・ホライン、クラフトの歴史を語る

オーストリアの首都ウィーンで開催される「ウィーン・デザインウィーク」の共同創設者であり、現在はオーストリア応用美術博物館(MAK)のディレクターを務めるリリー・ホラインは、ヨーロッパのデザイン界を支えるキーパーソンです。ここでは、アートとクラフトのクロスオーバー、北欧デザインの重要性、ホライン本人と世界にとって芸術運動の歴史が意味するものについて語ってもらいました。

アート(芸術)とクラフト(工芸)の違いと、両者が境界線を越えて混じり合う点について教えてください。
アートとクラフトの関係性は、時代とともに異なるステージをたどってきたと思います。今日の私たちは、以前と違う視点でクラフトを見ているような気がします。ですが、アイコニックなオブジェの多くは、常にアートとクラフトを結びつけるものでもあります。オブジェが長く愛される理由のひとつは、それが特定の“ポイント”に触れるからだと思います。こうしたオブジェはとても機能的であると同時に機能性を超越しています。そこには、楽しさという要素も必要です。

もっとも影響を受けたデザインムーブメントは何ですか?
メンフィス(訳注:イタリアの建築家およびインダストリアルデザイナー、エットレ・ソットサスを中心とする、1980年代前半の前衛的なデザイナー集団)の作品と初めて出会ったのをきっかけに、デザインとエモーショナルな関係性を育むようになりました。当時はまだ若かった私は、メンフィスの自由な表現、ひいては彼らのデザインのスタイルの背後にある完全な解放感にすっかり心を奪われてしまったのです。

デザインのスタイルの違いは、どのようにして社会の異なるニーズを映し出すのでしょうか?
人々が安全や安心感を求めているような時代であれば、メンフィスは誕生しなかったでしょう。メンフィスはあまりに遊び心にあふれていて、自由奔放ですから。モダニズムの合理性のほうがこうした感情をよく捉えています。それに加えて、私たちが生きているデザイン史の“いま”を鑑みると、多くのデザイナーがサステナビリティという明確な概念を抱いて仕事をしている現状が見えてきます。当然ながら、今日は大量消費の時代でもありますから、プロダクトデザインはこうした特徴を映し出しています。私たちの時代のデザインは、ありとあらゆる矛盾した衝動を表現しているのです。

北欧デザインの重要性とは?
北欧デザインがさまざまな世代に多大なる影響を与えた点は、驚嘆に値します。北欧デザインは、デザインのフォルムとして驚くほどリアルで、そこにはある種のオープンさや謙虚さがあります。品質に対する着眼点は、実に見事です。北欧デザインは、北欧の人々の考え方と深く結びついているのです。