キャスパー・ケルガード

デンマーク出身のデザイナー、キャスパー・ケルガードはデンマーク王立芸術アカデミーを卒業してからわずか数年でデザイナーとしての地位を確立しました。この数年間にケルガードは、デンマーク・デザイン賞のクラフツマン・オブ・ザ・イヤー(年間最優秀職人)に輝き、デンマーク芸術財団から助成金・DUKEを授与されるという快挙を成し遂げました。さらに彼の作品は、デザインミュージアム・デンマークの恒久展示にも名を連ねています。

ケルガードの作品の特徴は、洗練された表現とクラフツマンシップに重きを置く点にあります。公共の空間における恒久的なインスタレーションからプライベートなインスタレーション、さらにはインテリアデザインオブジェや照明に至るまで、世界的に高く評価される彼の作品は、ロサンゼルス、マイアミ、ニューヨーク、ミラノなどで展示されてきました。

重力と摩擦という自然の側面に強く惹かれるケルガードは、デザインとオブジェは、私たちを取り巻く環境の理解へとどのようにして私たちを導いてくれるのか? という問いかけの答えを探求します。抽象的で機能的でありながらも本質的に詩情に富む彼の作品は一連の技術と素材をルーツに持ち、アートとデザインの明確な境界線を定めません。

デンマーク出身のアーティスト&デザイナーのキャスパー・ケルガードにフリッツ・ハンセンがインタビュー

フリッツ・ハンセンから発売されるペンダントランプ「ワンライン」のミニマルなスタイルは、ポール・ケアホルムのデザインと比較されることが多々あります。その点について、どのようにお考えですか? ご自身にとってミニマリズムとは?

ポール・ケアホルムと彼のデザイン思考には、昔から共感を抱いていました。通っていた学校にPK54テーブルがあったので、学生時代は気づくとテーブルの下に潜り込んで脚を研究していました。いまは、何も隠さずにすべてを見せるケアホルムのデザインからインスピレーションを得ています。ケアホルムと同世代のデザイナーたちが木材を使用していたのに対し、あえて金属を使っていたこともとても興味深いです。ケアホルムは、常に時代の先をいく人物だったのです。

金属を使うというアプローチは、私にとってきわめてパーソナルなものでもあります。金属を使えば、自然素材の有機的な要素にとらわれずに自分のアイデアを表現することができます。私は、すべてのディテールは何らかの機能を果たさなければいけない、すべての機能は見られることを想定しなければいけないと考えています。

自分の作品に取り組むときは、一見対照的な素材を組み合わせて、構図の詩情を引き出すのが好きです。たとえば、スチールの重さと羽の軽さのように。ですが、ワンラインの場合は別のアプローチを採用しました。補足的な素材と可能な限りシンプルなバックを使うことで、ミニマルであると同時に機能的なプロダクトを考案しました。ワンラインの魅力は、どれだけ時が流れても変わらないでしょう。

照明のようなプロダクトをデザインするにあたって、アーティストとしての活動はどのような影響を与えていますか? ワンラインに取り組んでいたときは、どのようにしてアートの世界からプロダクトの世界へとシフトしたのでしょうか?

アイデアの多くは、スタジオにある素材を使って作品を作っている最中にひらめきます。アートからプロダクト、プロダクトからアートへと移動するプロセスをうまく表現するのは難しいですが、振り子の動きのようなものだと思っています。芸術的なコンセプトに取り組んでいる最中に、いつかはプロダクトをデザインする際に活用できそうなソリューションを発見することもありますし、逆もしかりです。ふたつの世界のあいだを揺れ動いているのです。

普通なら、まず問題を特定し、それから解決策を見つけるという手順を踏みます。でも、私はそのようには考えません。

ワンラインをデザインしたときは、どのようなシーンを思い描いていましたか? オフィス、それともキッチン?

ワンラインのアイデアは、実は何年も前に生まれたものなのです。当時は、自分のオフィスデスクの上に吊るす照明を思い描いていました。いまは、自宅のキッチンカウンターの上に吊るしてあります。すごくいいですよ。でも、食堂や広い会議室の天井に一列に並べるのもいいですね。アート作品のように、壁に斜めにかけるのもいいと思います。

いろんな用途で活躍する照明だと思います。

ワンラインは、空間にどんな効果をもたらすと思いますか?

ワンラインは、電気がついていない状態でもきわめて幾何学的な表情を魅せてくれます。シンプルなデザインによってグラフィカルで繊細なシルエットに仕上がっていますから、とてもシャープな印象を与えます。形はもちろん、ワンラインから放たれる光が空間を美しく飾ってくれます。

ワンラインの制作プロセスについて話しましょう。 ワンラインを制作するにあたり、フリッツ・ハンセンとの共同作業はいかがでしたか?

ワンラインの試作品は、品質と光の発散具合という意味ではかなりひどい出来でした。共同制作をはじめたころは、フリッツ・ハンセンがここまで高い品質基準を設けていて、スタッフの方々が素材に関する専門知識も豊富に持ち合わせていることを知りませんでした。たとえば、フリッツ・ハンセンの方々は、十分な明るさを実現できる素材が何かを知っていました。彼らの専門知識のおかげで、ワンラインはひとつの優れたアイデアから立派な製品へと姿を変えることができたのです。

それに加えて、開発段階での対話もとても有意義でした。オリジナルのデザインに変更を加えるたびに私に相談し、承認を待ってくれました。おかげで、終始安心して取り組むことができました。

ご自身の創作プロセスをひと言で表現すると?

スピーディーな試作品作り。何かを思いつくと、すぐに制作に取りかかります。

プロセスそれとも結果——作品づくりで重要視するのは?

結果です。でも、プロセスも重要です。自分自身で作ることができる作品をデザインするのが好きです。

アーティストのなかには、いいアイデアがひらめくとそれをスケッチして、別の人に製品化してもらうことを好む人もいると思います。でも、私は自分の手で試行錯誤しながら作品を作り上げていくプロセスを楽しんでいます。たとえば、ガラスの作品を作ることになったとしましょう。私は、ガラス作りを勉強して、まずは自力で作品を作ることからはじめます。

こうしたプロセスは、何が合理的で何がそうでないかを見極める際に役に立ちます。自分の手で素材を扱っていると、前よりも物知りになったような気がします。

インスピレーションを与えてくれる人や物は何ですか?

いろんなものからインスピレーションを得ています。絵の中に描かれたシンプルな図形にもインスパイアされます。先日、太陽の画像を見たのですが、見た瞬間、この画像はいろんな方法で自分の作品に使えそうだな、と思いました。

現在は、どのような作品に取り組んでいますか?

現在は、いくつかの建築プロジェクトと、まもなく開催される個展のための作品に取り組んでいます。